「着いたぜ。ここがイルカ像が隠されている洞窟だ」
 ハーマンに案内され、シオリ達はイルカ像が隠されているという洞窟に辿り着いた。洞窟は奥深い森の奥にあり、案内無しでは到底辿り着けないような洞窟だった。
「何だ? 俺が教えられた所と違うぞ?」
「当たり前だ。お前に教えたのは大した財宝が隠されていない洞窟だ」
「何だと! そんなトコ教えやがったのかジジイ!」
「俺の本を買わない奴に、いい財宝が隠されている洞窟を教えるかよ。大体何度も言ってるが、俺はまだ30代だ!」
「まあまあ、お二人共気を鎮めて」
 口論するハーマンとアッテンボローを、ユリアンは軽くなだめたのだった。
「それで、具体的にこの洞窟にはどの程度の財宝が眠っているの?」
「そうだな。希少価値があるのはイルカ像位だ。後は大したことないアイテムに数千オーラムの金だな」
 洞窟の詳細を訊ねるカオリに対し、ハーマンがはきはきと応えた。
(とりあえず嘘を吐いている気配はないわね。でも……)
 ハーマンの語り口から、とても嘘を言っているようには見えないとカオリは思った。ただ、今度は余りに詳し過ぎるという疑問が湧いた。どれだけの財宝が眠っているのかと聞かれ、詳しく応えられるのはそれだけこの洞窟を把握しているということだ。
 しかし、問題なのは何故その財宝を自分の物にしないかということだ。普通、財宝の在り処を知っているなら、人に教える前に自分の物とする筈だ。敢えて財宝を自分の物とせず、情報料を稼ぐという行いは、奇異な行動に感じる。
 それを踏まえると、このハーマンという男の素性が大体分かって来るとカオリは思った。考えられる素性は二つ。一つはアッテンボローの部下、それも忠誠心の強い腹心。そしてもう一つは、この老人こそが海賊アッテンボローではないかということだった。
「行きましょう! すべては魔貴族を打ち倒す為に!」
 シオリの掛声に呼応し、一行はハーマンの案内の元洞窟へと足を踏み入れて行ったのだった。



SaGa−32「海賊アッテンボローの秘宝」


「よし、あのバカ二人組を除いてはちゃんと付いて来たな。いいか、今までは序の口みたいなもので、ここからがこの洞窟の厳しい所だ」
 ハーマンの指示するがままに洞窟を散策する一行。ハーマンの指示が正確なまでに適切で、一行は迷うことなく洞窟の奥へ、奥へと進むことが出来た。
 ちなみに、バカ二人組とは、ハーマンの指示を無視して勝手に歩き回っているジュンとポプランのことである。
「厳しい所と言いますと、この先に何か仕掛けでも?」
「ああ。この先の道は隠しスイッチを押さないと穴が閉まり先に進めなくなる。肝心のスイッチはどこだったけな?」
 ハーマンはユリアンの質問に答えると、隠しスイッチの在り処を探し始め、無事スイッチを押したのだった。
「よし。これで先に進めるぜ」
「ふぇ〜〜、散々だったぜ……」
 ちょうどその時、別行動を取っていたジュンとポプランがようやく合流したのだった。
「ったく、ジジイのモウロク話なんてアテにならないって思って別の道進んだはいいが、ロクなもんがなかったぜ」
「ちゃんと言っただろ。そっちの方に行ったって何もないって。人の忠告は素直に聞くもんだぜ」
「はいはい」
 ハーマンの忠告通り何もなかったのでポプランは返す言葉もなく、一応ハーマンの言葉を肯定するかの様な返答をしたのだった。
「もう、ジュンさん、あんまり来ないから完全に道に迷ったのかと思いましたよ。もう勝手な行動はしないでくださいね!」
「ああ、分かったよシオリちゃん。以後はハーマンさんの言葉に従うとするよ」
 自分より年下のシオリに注意されるようじゃ自分もまだまだだなと、ジュンは以後はハーマンの言葉に従おうと思ったのだった。
「ねえ、そろそろ聞いてもいいかしら? あなたが何者か?」
 一行が再び集ったのを機に、カオリはハーマンに何者か訊ねたのだった。
「何者かって、俺はただの……」
「ただの、何? ここに来るまでのあなたの指示は適切だったわ。正確過ぎる位にね。少なくとも、気まぐれな冒険家って感じではないわね」
「……」
「それに、何よりの疑問は、これだけ洞窟に精通していながら、財宝の一つにさえ手を付けていないことよ。普通財宝の隠し場所を発見したら、まず自分の物にするのが人間ってものよ。
 あなたが特別財宝とかお金に興味ない人って考えもしたけど、人に洞窟のガイドブックを売り付けているような人がそういう物に興味がないってことは考えられないわ。
 となると、あなたの正体は大体絞り込めて来るわ。あなたは海賊アッテンボローの部下、もしくは……」
「……。やれやれ、姉ちゃんのご推察通りだぜ。何を隠そう俺自身が海賊アッテンボローだ!」
「えっ!? ハーマンさんが!?」
「なっ、てめぇがアッテンボローだと!? このジジイ、ついに頭がイカレちまったか!?」  ハーマンが自らの正体を明かしたことに、みなは驚きの声をあげた。ただ一人、カオリだけが冷静な眼差しでハーマンを見つめていたのだった。
「ありがとう、正体を明かしてくれて。やっぱりあなたが海賊アッテンボロー本人だったのね。自分が隠した財宝なら在り処や仕掛けを知っていて当然だし、何より元から自分の物だったら、わざわざ運び出す必要は無いしね。
 でも、まだ解けない疑問があるわ。ハーマン、いいえアッテンボロー提督。何故あなたは自分の財宝の隠し場所をわざわざガイドブックまで作って人に教えようとするのかしら?
 小銭を稼ぎながら余生を過ごしたいから? 嘗てアスターテ海を荒らし回ったあなたが、そんな些細な生き方を望むとは思えないけど」
「提督か。一応俺に敬意を表わしているようだな。いいぜ、全てを話してやるぜ」
 アッテンボローは静かに語り出した。今の自分に至るまでの経緯を。
「俺は基本的に他の海賊が盗んだ財宝やら密輸船の積荷なんかを狙う海賊だった。義賊を演じたかったというよりは、そういう奴等から盗む方が伊達と酔狂を感じられるってのが理由だったな。
 そんなある時、更なる伊達と酔狂を感じようと、西大洋に乗り出した。……それが俺の運の尽きだった。西大洋に乗り出して4日目、運悪く船が魔海候フォルネウスに襲われ、俺は船と仲間、それに片足を失い、更には生気を吸われちまってこの有り様だ。
 言わば今の俺は陸に上がって干からびちまったカッパさ」
「カッパか、はっ!」
「ちょっと、ポプランさん。提督に色々言いたいことはあるだろうけど、今の言い方はないわね」
「カオリお姉様に注意されちゃしょうがねえな。以後発言に気を付けます」
 アッテンボローを嘲笑ったポプランだったが、カオリに注意され、大人しく自分の軽率な発言を反省したのだった。
「そんな過去があったんですね。だから、私達に快く協力してくれたんですね」
「まあな。にしても、君のようなか弱い嬢ちゃんがまたフォルネウスを倒そうってのは、何か深い訳でもあるのか?」
 話掛けて来るシオリに、今度はアッテンボローが訊ねたのだった。
「はい。それが自分の使命だと思ってますから」
「使命か。あまり答えになってない気もするが、強い意志だけは感じるな。話が長くなったな。これで十分だろ? カオリさん」
「ええ。色々と話してくれてありがとう。この先の案内もお願いね」
 こうしてハーマンの正体を知った一行は、イルカ像を求めて、洞窟の更に奥へと進んで行くのだった。



「さて、ここがこの洞窟の最大の山場だ。みんな、目の前に大きなドラゴンの石像が飾られているのは分かるな?」
 アッテンボローの言う通り、目の前には大きなドラゴンの石像があり、皆は物珍しそうにその石像を見るのだった。
「実はコイツは石像じゃなく、石化された本物のドラゴンだ。スイッチを押して先に進む穴が開かれると、ドラゴンの石化が解けて襲い掛かって来る仕組みなんだ」
「あの、どういう原理で石像になっているドラゴンの石化が解けるんですか?」
「細かいことは気にするな。ともかくだ。ドラゴンと戦う必要はない。俺がスイッチを押したら、みんなで一斉に穴まで走り続けるんだ」
 アッテンボローはシオリの疑問を無視して、スイッチを押した後の行動を指示するのだった。
「いいえ。せっかくだから倒して先に進みましょう」
 だが、ユリアンはアッテンボローの指示に反する答えを出したのだった。
「おいおい、人がせっかく仕組みを教えてやってんのに」
「ドラゴン一匹倒せないようでは、四魔貴族なんてとても相手に出来ません。この剣の威力を試すのにもいい機会ですし」
「そうね。ドラゴン一匹倒せないようじゃ、四魔貴族を倒すなんて夢のまた夢。私も戦います」
 ユリアンの言葉に呼応し、シオリも敢えてドラゴンと戦う道を選んだのだった。
「シオリが戦うって言うのなら、あたしも戦うしかないわね」
「ヘッ、アラケスに比べればドラゴンなんて屁の河童だぜ! ここでアラケス戦の汚名を挽回する!」
 シオリに続き、カオリとジュンもドラゴンと戦う決意をしたのだった。
「やれやれ、みんな物好きだな。俺はアッテンボローの言葉に従って先に進ませてもらうぜ……って言いたい所だったが、トレジャーハンターの道に、財宝を守る強敵との戦いは付き物。いっちょ付き合ってやるか!」
「まったく、みんな伊達と酔狂にも程があるな。俺は嫌いじゃないがな。戦うってんなら、一応教えておいてやる。このドラゴンはブルードラゴン。角やら牙も厄介だが、何より脅威なのは電撃だ。石化が解除された直後に電撃を放つ可能性もある。十分に気を付けるんだ。
 それじゃ、スイッチを押すぜ。戦う準備はいいか?」
 アッテンボローが最終的な確認をし、皆準備は万端だと答えたのだった。
 カチャリ、ゴゴゴゴゴ
「グオオ〜〜!!」
 アッテンボローがスイッチを押すと、奥の方で穴が開かれる音が聞こえた。同時にブルードラゴンの石化が解け、強烈な電撃が皆に降り掛かったのだった!
「はあっ!」
 その電撃を、カオリは洞窟内で入手したバイキングシールドで防いだのだった。
「お姉ちゃん!」
「心配は無用よ、シオリ。あたしの履いているラバーソウルは電撃に耐性のあるブーツだから。今度はあなたに電撃を浴びさせてあげるわ! 稲妻キィィィック!!」
 カオリは地面をめい一杯蹴り上げ、体術技稲妻キックをブルードラゴンに放ったのだった。
「グオオ!」
 だが、カオリの放った稲妻キックは、ブルードラゴンに全くといっていい程聞いていなかったのだった。
「やっぱり、電撃を使う相手に電撃技は効果がないみたいね」
「よし! 次はオレが行くぜ! ドラゴンに効くかどうかは分からないが、名前がそれっぽい龍尾返しで攻めるぜ!」
 続けてジュンが剣技龍尾返しでブルードラゴンに立ち向かって行ったのだった。
「グオッ!」
「何っ、ぐわっ!」
 しかしジュンはブルードラゴンの尾撃をまともに食らい、見事転倒してしまった。
「次は僕の番です! 冷たい風!」
 ユリアンは刀身から冷気を発生させ、相手の神経を麻痺させる氷の剣固有技冷たい風をブルードラゴンに浴びさせたのだった。
「グオゥ〜〜!」
 冷たい風は直接的なダメージを与えることは出来なかったが、確実にブルードラゴンの神経を麻痺させたのだった。
「さすがは聖王遺物って所かしらね。これだけ大きな生物の神経を麻痺させるんだもの」
「でも、冷たい風は神経を麻痺させただけで、ダメージを与えた訳ではありません」
「そうね。ここからが反撃ね。大木断!!」
 今度こそブルードラゴンにダメージを与えてみせると、カオリは斧技大木断でブルードラゴンを攻撃したのだった。
 ガキィ!
 しかし、カオリの放った大木断は、ブルードラゴンの皮膚に僅かにダメージを与えただけで、致命傷を与えるまでには至らなかった。
「なんて硬い鱗! さすがはドラゴンって所ね」
「へヘッ、ここは俺に任せなカオリお姉様。斬って駄目なら一点集中の攻撃で仕留めるのみだ。瞬速の矢!!」
「グアア〜!」
 ポプランの放った渾身の瞬速の矢はブルードラゴンの硬い龍鱗を貫いたのだった。
「グガァァァ〜〜!!」
 しかし、その一撃は皮膚を貫いただけで、やはり致命傷には至らなかった。それどころか、ブルードラゴンの逆鱗に触れることとなり、ブルードラゴンは怒りの稲妻を周囲に拡散し続けたのだった。
「ちょっと、反って状況を悪くさせてどうするのよ!」
「わ、ワリィ……」
 ブルードラゴンの稲妻は衰えることなく襲い掛かり、皆はその攻撃を防ぐことで精一杯だった。
(下手にダメージを与えるのは、徒にブルードラゴンを怒らせるだけ。なら、私が決めるしかない!)
 シオリは妖精の弓と矢を構え、精神を集中させた。この一撃に全てを賭ける為に!
「行きます! 妖精の矢!!」
 ドシュッ!
「グアォッ!?」
 シオリの放った妖精の矢は見事ブルードラゴンの急所を貫き、ブルードラゴンは倒れたのだった。
「はぁはぁ。何とか倒せました……」
 ブルードラゴンを倒し緊張の糸が解れたことにより、シオリはその場に尻餅を付くのだった。
「お見事、お見事。まさかこのブルードラゴンを倒しちまうとはな。これだけの腕があればフォルネウスを倒すのも夢じゃないかもな」
 その時、戦闘中姿が見えなかったアッテンボローが姿を現したのだった。
「やい、カッパ野郎! てめぇ一人だけ今までどこに隠れていやがった!」
「俺は戦うだなんて一言も言ってないぜ? 第一ここにある財宝は俺のモンだ。だから俺には最初からドラゴンと戦う理由なんてないのさ」
「俺のモンって言ったって、他人からかっぱらったモンだろうが!」
「あっ!? トレジャーハンターなんて名前だけは聞こえのいいその実ただのドロボー野郎にそんなこと言われる筋合いはないぜ!」
「まあまあ、お二人共。口喧嘩はその位にして、早く奥に進みましょう」
 ユリアンが仲裁に入ったことで、ようやく二人は口喧嘩を止めたのだった。こうして一行は強敵ブルードラゴンを倒し、イルカ像にまた一歩近付くことが出来たのだった。



「ここがイルカ像を隠している部屋だ。宝は他にも色々あるから好きなだけ持って行くがいいぜ。但し! 一番上にある宝箱には手を触れないことだ」
「待ってました! 早速お宝の取り放題と行くぜ!!」
「待ちやがれ! オレの分まで取るんじゃねぇぞ、ポプラン!!」
 宝が他にもあると聞き、ポプランとジュンは一目散に財宝目掛けて走り出したのだった。
「まったく、ジュン君ったら本来の目的忘れてるわね」
「まあまあ。カオリさん、一応目的の物は手に入りそうなんだし、今は大目に見ましょう」
 ジュンの無節操な行動に呆れるカオリを、ユリアンが軽めにフォローしたのだった。
「それでポプランさん。肝心のイルカ像は?」
「ああ。今持って来るぜ」
 シオリにイルカ像の所在を訊ねられ、アッテンボローは3人の前にイルカ像を持って来たのだった。
「待たせたな。これがオリハルコンで精製されたイルカ像だ」
 アッテンボローが持って来たイルカ像は、プラチナとクリスタルを混在させた様な独特の光を放つ像だった。
「これがイルカ像……。ありがとうございます、アッテンボロー提督。これでフォルネウスを倒すことが出来ます」
「良いってことよ。話した通り、俺もフォルネウスとは色々と因縁がある。寧ろ復讐を遂げられるチャンスをくれてこちらがありがとうって言いたいくらいだぜ」
「ユリアン、これでフォルネウスと戦えるわね」
「うん。シオリ、すまないけど、君はこのイルカ像を持ってイゼルローンに向かってくれないか?」
「えっ、どういうこと?」
「僕には他にやらなきゃならないことがあるから」
 ユリアンが自身に課した使命。それはグレートアーチの東方に広がるジャングルの奥地にある火術要塞にいる、火炎長アウナスをアビスゲートの奥へ押し返すことだった。
「アウナスはその名が示す通り、火炎攻撃を得意とする魔貴族だ。だから、この氷の剣の力があれば、アウナスと互角以上に戦えるハズ!」
「ユリアン、いくら何でも一人で魔貴族と戦うのは危険だわ!」
「そうよ。前にも言ったけど、それは驕りというものよ」
「シオリ、カオリさん……」
「ユリアン、一人で何もかも背負おうとしないで。ユウイチさんやユキトさん、ここにいるみんなはユリアンの仲間よ。だから一人で戦おうとしないで、その、もう少し仲間を頼ってもいいんじゃないかな?」
「シオリ……。そうだね、ゴメン、こんなこと言える立場かもしれないけど、君も僕と一緒に火術要塞に来てくれないか?」
 もっと仲間を頼ってもいいのではないか。そのシオリの一言にユリアンの心は揺れ、ユリアンは共にアウナスと戦おうとシオリに話し掛けたのだった。
「ええ。みんなで力を合わせてアウナスを倒しましょ!」
「仕方ないわね。それがシオリの使命なら、あたしはどこまでも付き合うわ」
 シオリをこれ以上危険な目に遭わせたくはない。それはカオリが常々思っていることだった。しかし、この動き出した運命の歯車は、もう誰にも止めることは出来ない。魔貴族をアビスの世界へ帰すことがシオリの使命ならば、それを素直に受け止めるしかない。受け止めてた上で自分が守り通せば良いのだから。
 こうして、イルカ像を無事手に入れたシオリ達は、力を合わせてアウナスと戦うことを決意したのだった。



「よお、ジュン。何か良い物は見付かったか?」
「いいや。1000オーラムに回復アイテムがいくつか。好きなだけ持ってけって言ったってロクなもんがねえじゃねぇかよ!」
 イルカ像以外の財宝を求めて、部屋の中を散策しまくったジュンとポプラン。しかし、大した物は置いてなく、二人共溜息を吐くのだった。
「となると、後はアレだけだな」
「だな」
 二人が口を合わせて言った物、それはアッテンボローが手を触れるなと言った宝箱だった。
「きっとアレん中には、人には手渡せないようなお宝が入ってるんだぜ」
「ああ。カッパ野郎も好きなだけ持って行っていいって言いながら、一番価値のあるお宝は渡す気がなかったに違いないぜ」
 手を触れるなとわざわざ忠告したくらいだ、きっとあの中には相当の財宝が眠っている筈。そう思い、ジュンとポプランは禁断の宝箱に手を触れようとしたのだった。
「ん? あっ、バカ、それは触れるなと言っただろ! 他は構わないがそれだけは駄目だ!」
「やれやれ。再三警告するくらいだから、やっぱり相当の物が入ってるんだな」
「まったく、水臭いぜアッテンボローのダンナ! 好きなだけ持って行っていいって言うんなら例外は無しにしようぜ」
「その中には財宝なんて入っちゃいない! とにかく絶対開けるんじゃない!!」
 何度も何度も忠告を重ねるアッテンボローだったが、中に財宝があると信じて疑わなかった二人は、アッテンボローの忠告を無視してとうとう宝箱を開けたのだった。
「ちっ、たったの50オーラムか。散々期待させておいてこれはないぜ」
 しかし、いざ宝箱を開けて見れば、中に入っているのはたった50オーラムのお金だった。
「ったく、何でこんなのしか入っていない宝箱をあれ程……」
 ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン……
 ポプランが愚痴ろうとした瞬間、宝箱の上から何かが降り落ちて来る音が聞こえた。
「何だこの音は? げぇっ!?」
 上に目を向けてジュンは驚いた。何と宝箱の上から大量のモンスターが降り掛かって来たのだった!
「だから開けるなって言っただろ! それは開けるとモンスターが降って来る罠が仕掛けられた宝箱なんだよ!」
「罠だと!? ブルードラゴンが最後の難関じゃなかったのかよ!?」
「あれだけのドラゴンを仕掛けてるくらいだから、もう流石にこれ以上仕掛けはないと思うのが普通だろ? それはそういった心理に巧みに付け込んだ仕掛けなんだよ!」
「罠なら罠って初めから言いやがれ! このジジイカッパ!!」
「ポプラン、てめぇ、まだ俺をジジイ呼ばわりするか! それ以上俺をジジイ呼ばわりするなら、モンスターに代わって俺がお前を始末してやるぜ!!」
「おうよ! 望む所だ!!」
「お二人共! 喧嘩するなら時と場合を考えて下さい! 今は口喧嘩するよりも逃げるのが先でしょう!」
 ブルードラゴン戦との戦いで疲労し切ったパーティでは、とてもではないがあれだけのモンスターを相手にすることは出来ない。そう思ったユリアンは二人の喧嘩を止め、逃げることを提案したのだった。
「そうね。イルカ像は手に入れたんだし、今は逃げた方が良さそうね」
 ユリアンの提案をまずはカオリが受け入れ、他のみんなもユリアンに従ったのだった。こうして一行は全力で逃げながら洞窟を後にするのだった。


…To Be Continued


※後書き

 今回で「ロマカノ」も32話を迎える訳なのですが、この32話というのは個人的に意味のある話数なのですよね。
 と言いますのも、私が今まで書いたSSの中で最長なのが、『みちのくKanon傳』の全32話(外伝除く)でして、ようやくこの話数に追い付くSSが書けたなと。まあ、純粋な文章量なら、数話前に「Kanon傳」を超えているのですが。
 しかし、「Kanon傳」は9ヶ月で完結したのに対し、「ロマカノ」を同じ話数書くのに3年以上費やしてしまったりと、いかに自分のSS書くペースが遅くなったかが分かりますね。
 さて、本編の話をしますが、ギャグオチで話が終わったのは、今回が初めてかもしれませんね。
 あと、分かる人は分かると思いますが、ポプランがアッテンボローに言った「カッパか、はっ!」の台詞は、「ロマサガ1」でキャプテンキャプテンホーク(笑)を仲間にしない時の選択肢です。今回海賊繋がりということでこのネタを使ってみました。
 それと、作中でユリアンが使った「冷たい風」も、実際は氷の剣の固有技ではなく、「ロマサガ1」のねんがんのアイスソードの固有技です。これも氷の剣を直訳すればアイスソードになることから、氷の剣の固有技として使用しました。
 これ以外にも聖王遺物の技には、「ロマサガ1」のネタを使用しようと思っていますね。どの技を使用させるかは作中を進めてからということで。

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